第10回 言語行動
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1. スキナー『言語行動』をめぐって
会話1
A「ちょっと暑いですね」
B(無言でリモコンを操作して冷房を入れる)
A「ありがとうございます」
会話2
A「冷房を入れませんか」
B「図々しいなあ」(と言ってリモコンを操作して冷房を入れる)
A(笑顔で)「恐縮です」
会話1「ちょっと暑いですね」
「冷房を入れて欲しい」という言外の意味
会話2であれば、BはAよりも年長である、というような状況をも解釈することが可能になるだろう
「冷房を入れませんか」と比較すると、1の「ちょっと暑いですね」はBに対する「気配りの格率」に従っているといように解釈することも可能 「図々しいなあ」の発話の際にもBも笑顔でリモコンを操作したとすると、そうした冗談が言えるほどかなり親しい関係にある、というような状況をも解釈することが可能
このように考えると「冷房を入れませんか」という発話自体が「謙遜の格率」に従っていたというように解釈することも可能になる 言葉を理解する過程
言葉を産出する過程
会話の状況を理解し維持する過程
複合的な情報処理過程で上で述べた語用論での解釈が実現している
会話1「ちょっと暑いですね」は「タクト」と呼ばれる叙述という機能を持った言語行動 会話2「冷房を入れませんか」は「マンド」と呼ばれる要求の機能を持った言語行動 会話1でも2でも「冷房が入れられる」という強化が得られる 「BはAよりも年長であるという状況」をも弁別刺激とみなすことができる
会話1「ちょっと暑いですね」
もしも「冷房を入れて欲しい」という言語行動をしたら「図々しいなあ」という弱化がもたらされるという結果を回避して「冷房が入れられる」という強化が得られていると説明することができる 会話2「Bも笑顔でリモコン操作した」とすると「BはAよりも年長であるが、かなり親しい関係にあるという状況」をも弁別刺激となる
会話2「冷房を入れませんか」という言語行動を行い、「笑顔」という強化が得られていると説明することもできてくる
ある行動が複数の弁別刺激の制御下にある
上記の一見単純な会話でも、多数の弁別刺激があって強化や弱化がなされている
発話以外でも同じ機能を持つ言語行動として捉えることができる
指差し、筆談、手話、展示、メール、SNS
行動分析学においては、言語行動と非言語行動との相互作用ということも同じ枠組みで捉えることができるということ スキナーの言語行動の分類
https://gyazo.com/3f2bc67f528c1b20c067f16f53650d30
ディクテーションとコピーイング以外はスキナーの造語
タクトを例にして、話し手と聞き手の刺激性制御と強化の関係について検討 タクトは報告言語行動で、環境の事物や出来事、その特徴などを記述したり、報告したりする 例: 子ども(話し手)が母親(聞き手)と散歩中に水たまりを見て「みず」という状況
環境事物の中の特定の事物や出来事(水たまり)と聞き手(母親)を弁別刺激として「みず」という言語行動が生起する
聞き手は、その弁別刺激(水たまり)と話し手の言語行動とが一致していることに気づいて言語反応を返すが、この言語反応は話し手の言語行動に対する強化子として働く
言語反応を取らなくても、表情反応や身振り・手振り反応であっても同じように強化子として働き、話し手にとっては強化刺激となる
話し手と聞き手との間で言語行動がいわば相互補強的に作用しあって、会話の連鎖という形で、反応連鎖が続いていく、というように捉えることができる https://gyazo.com/e27088c369f88630a5ce588d874267b7
2. ルール支配行動をめぐって
「いつどんなときに、何をしたら、どうなるかという関係」を記述した言語刺激というように捉えた
人間の言語行動においては、このようなルールは他者から「教示」として与えられる場合だけでなく、自分自身で生成する「自己ルール」になる場合もある 「言語ルールに従うと、そのルールに従って利益を得たり、不利益を避けられることにより形成・維持される」行動
e.g. 「日差しが強いから帽子を被りなさい」
結果として日差しを避けることが出来るならば、「帽子を被りなさい」という「教示」に従う行動は強まることになるだろう
ルールは弁別刺激として機能している
「従うと他者から褒められるなど社会的に強化されることにより形成・維持される」行動
子どもが帽子を被らなかった結果として先生から叱られたり、逆に帽子をかぶった結果として先生から褒められたりすると、教示に従う行動は強まる
ルールは弁別刺激として機能している
「直接ルールは提示しないが、何らかの言語的指示を行うことにより反応の生起頻度や強化子・弱化子の効力を変化させる」行動
2つに区別
何らかの言語的提示により、行動に随伴する結果(出来事や事象)に対して強化(弱化)としての機能が新たに確立されること
e.g. 放送大学について全く知らない人が、「放送大学はためになる」と言われて、放送大学について調べたり入学したりする行動が高まる
何らかの言語的提示により、行動に随伴する結果(出来事や事象)の機能を強めたり弱めたりすること
e.g. 職場の人間関係に悩んでいる人が「放送大学で心理学を学ぼう」という広告を見て、放送大学について調べたり入学したりする行動が高まる
オーギュメンティングでは、何らかの言語的指示は確立操作として機能していると言える 自分が述べたこととこれから行うこととが一致するか
自分が述べたことは自分が行うことへのルールにもなる
人間の言語や思考が関係している行動について、
話し手の立場からは言語行動として
聞き手の立ち場からはルール支配行動として区別することができるだろう
これを行動分析学から捉えると言語行動とルール支配行動という概念だけでは説明ができないことも認識されていた
学習や経験の履歴がないにも関わらず、新しい言語行動が生成(創造)される
人間の言語や思考が関係している行動の特徴は、派生的な刺激関係と刺激機能の変換であり、それらの変換は恣意的に適用可能な関係反応によって成立すると捉えている 人間の言語や思考が関係している行動
人間を取り囲む出来事や事象は、さまざまな刺激とその関係として捉えることができるが、人間の言語では、物理的な関係性からは独立して、ある任意の刺激同士を関連づけると、それに派生した別の刺激間の関係が形成される、ということが成立している
「実際の人間は『ヒト』とよぶ」と「『ヒト』は『人』と書く」とを関連付けると、
派生的に「実際の人間は『人』と書く」とか「『人』という文字は実際の人間を指す」ということまでも関係づけられる
このような関係性としては以下の関係を扱ことも可能であるとされている
関係フレームづけには以下が区別されている
AはBであるという関係性が形成されると、自動的にBはAであるという反対の関係が派生すること
AはBは、BはCという関係が形成されると、自動的にAはCという関係性が派生し、またCはAという関係性が派生すること
A、B、Cの内のいずれかの刺激に対して別の関係づけを行うと、派生的にそれ以外に対しても同様な関係性が形成される
こうしてこのような関連フレームづけは、恣意的に適用可能な関係反応によって成立することになる
どのような刺激にどのような関係づけが形成されるかは、刺激自体の性質で決められるものではなく、
逆に言えば、あらゆる刺激と関係づけられることが可能であるので、その関係性を特定するような状況における何らかの手がかりによって影響を受ける、
つまり恣意的に形成されるということ
この状況における手がかりということでは言語行動のタクトのように物を叙述するという機能を持つ言語行動であれば、周囲の社会的文脈の中で規定されるということ 言語習得の場面においても、このような般化オペラントという経験を通して、新規な刺激に対しても一貫して関連づけを行うことができるようになってくる 3. 再び、言語行動をめぐって
行動分析学においては、その研究自体をも「言語行動」として捉えている
研究集団は同じ言語共同体に属しており、その言語共同体に属している他の研究者のオペラント行動による強化(や弱化)によって、研究という行動自体も形成され維持されているというように捉える(佐藤, 2001, 武藤, 2019など) 記述や予測ということも、研究対象に対して何らかの関係づけを行っているという意味では、制御しているということ
活動理論からの学習として「学校制度での学習」「日常生活」について検討した 人間の活動も、それぞれの活動について言語共同体に属していると捉えることができる
言語共同体ごとにその構造や機能は異なると捉えれば、活動理論から研究が必要である、ということ
構造は異なるが機能は統一的に捉えることが可能であると捉えれば、行動分析学からの研究は積み重ねるというアプローチも可能であるということ
研究活動自体を研究対象として捉えているのは、行動分析学に限定されていない